『神の河よ、私を浄化しておくれ』~浄化され過ぎ高熱発症
『悠然と全てを受け入れるガンジス河』byS
毎日の日課の様にガンジス川の岸沿いを歩いていると、船漕ぎを職業とする青年が私に声をかけた。
船漕ぎの青年
『やあ!君はブルースリーの関係者か??』
私
『そんな感じだ(笑)』
年は21歳で、名前はラージという。
ラージ
『君はかっこいいね!!日本人か?いいね!人生を自分で選べるんだろ?
俺は一生船を漕ぐ人生だ。俺の父さんも、おじいさんもみんな船漕ぎの人生だ。
俺はさ、次生まれ変わったら、お金持ちになるんだよ。
今回の人生は諦めてるけど、次はきっと金持ちの人生だ。』
彼は悲壮感もなく、あっけらかんとした表情で私に伝えた。
私はその達観した考えに感心し、興味を持った。
日本は仏教の国だが、一般人にとっては形骸化されたものに過ぎない。
ヒンズー教の輪廻転生の思想がこんなにも自然に根付いてる事に驚いた。
川岸を歩く私を見つけると、ラージは私に親しく話しかけるようになった。
数日後のラージ
『君が気にいったよ。俺がこの街で一番おいしいラッシーを君にご馳走したいんだ。今から一緒に行こう!!※』
ラッシー は、インド料理の飲物でダヒー(ヨーグルト)をベースに作られる。 濃さはどろっとしたヨーグルト状のものから、水分の多いさらっとしたものまである。特に名前の違いはなく、作る人や地方、好みによる。
彼は、突然私の手を握ってきた。
俺は瞬間的に強張り驚いた顔をすると、ラージは笑顔で言った。
『この国では男同士でも手を繋ぐんだ。親愛の印として。』
と真っ直ぐな瞳で教えてくれた。
(その真っ直ぐな瞳やめてくれないかな・・そういや、インド人は男同士で手を繋いでいたの見かけたな・・)
私は、かつてない複雑な心境を味わい、ざわざわとした緊張感を感じ、
なおかつ異様な汗をかきながら、ガクガクと震える足取りで店に向かった。
(これで手を振り払ったら、ラージは悲しむのだろうか・・・悪意には戦えるが、好意にはどうも弱い・・・)
目的の店は、シャッターが閉まっていた。
ラージ
『あ。今日は休みだ。じゃあ隣の店にしよう』
ラージが示した店はあきらかに不衛生に映った。
人が口に入れる食べ物を、乱雑に置き、調理器具も汚れていた。
何しろ、ヨーグルトやコップ、果物すべてに黒いハエがびっしりとたかっていた。
ラージはそんなことを気にもせずに、何やら店主に注文した。
お店を見渡すと、黒い塊、まるで海苔に見えるようなものが置かれていた。
店の親父が、その黒い塊に手を伸ばすと、黒い塊がわっと空に飛び交った。
親父は、ブンブン飛び回るハエをものともせず、ラッシーを作った。
『え?今の全部ハエなの?そのハエが固まっていたものを今から口にするの??』
私は、めまいを起こしそうになった。
(これは、さすがに飲めない。申し訳ないが、ラージの目を盗み、隙を見つけて捨てるしかない。)
そして、ついに「そのラッシー」が、私に手わたされた。
船漕ぎのラージ青年は真っ直ぐな瞳で
『君がハッピーだと俺もハッピーさ。さあ飲もうじゃないか!!』
私
(ははは、俺はかなりアンハッピーさ!!)
と真っ直ぐな瞳に言える勇気はなかった・・・
ラージは、なんのためらいもなく一気に飲み干した。
ゴクゴク。
ラージ
『ああ!うまい。さあ、次は君の番だよ。ハッピーになれるよ』
ラージは、いつまで経っても飲まない私に
『さあ、さあ』
と強烈にプレッシャーをかけてきた。
天使の瞳を持った軍曹の様に私には見えて来た。
ラージ軍曹
『さあ!飲むんだ!美味しいから!飲むんだ!ぐっと!』
ラージは、俺がラッシーを飲むまで目を離すことなく、「おいしい」という感想を俺が言う事を期待に満ちた顔で待っていた。
これは、逃げられぬ。
ラージ軍曹に隙などありはしない。
もう玉砕するしかない。
俺は腹を括った。
さらば!日本!!いつかどこかで!!
『ゴクゴク。』
私
『あれ?うめーじゃん』
ラージ
『だろ?』
俺もだいぶ、たくましくなっていた(笑)
翌日、私は険しい顔で、ガンジス河を見つめた。
バラナシに来たのは聖なる川で、この心身ともに浄化するためだ。
ガンジス河に沐浴(※河に入り体を水にひたす)するのは勇気が必要だった。
ヒンドゥー教では、沐浴を行うことで、罪を流し功徳を増すと信じられている。ヒンドゥー教徒の多くは1日の始まりに、寺院の貯水池や川で沐浴を行う。あるいは毎日仕事を終えた後1時間ほど時間をかけて全身を洗いきよめる[3]。多くの聖地が集積するガンジス川での沐浴の光景は特に有名で、ベナレス(バラナシ)がその中心地。
私はこの河に死体を流し続けるのを眺めていたのもある。
聖なる河は、茶色で何も見えない。
川の周囲を眺めると、ゴミや犬の死体も悠然と流れている。
あのラッシーを乗り越えた今。俺に恐れるものはなかった!!
なんのために、ここまで来たのだ。
ラッシーを飲みに来たわけじゃなーい!!
えーい!さらば煩悩!!
全部、帳消しにしてくれーい!!
俺は意を決して、ガンジス川に体をひたした。
河は、生温かくて、ヌルヌルした。
『お、下は階段になってんだな』
俺は調子に乗って、川底を潜ったりした。
もはや沐浴ではなく、孤独にはしゃいでいる可哀想な俺の姿を見つけた
日本人旅行者が声をかけてくれた。
日本人旅行者
『日本人ですか?勇気ありますね!写真撮りましょうか?』
私
『俺には、最近勇気しかないですから。この勇気を撮ってくれい。』
と好意に甘えた。
河の中で体を浸している間、体中がゾワゾワした。
よし、これで俺は浄化されたぞ!!
罪は帳消しになり、ついに涅槃※に至ったぞー!!
と私はガンジス河で叫んだ(心の中で)。
翌日、寒気がして、動けなくなった。
宿の親父さんから体温計をかりると39.5℃だ。
涅槃には至らず
浄化され過ぎ、高熱には至ったようだ・・・
これは、まずい。俺はガクガクと震えベットに潜りこんだ。。
宿の親父さんが、病院に連れて行ってやると言ってくれたが、俺は動きたくなかったので断った。
カズは俺が寝込んでるのをどこからか、聞きつけた様で、
『大丈夫ですか?』と心配してわざわざ宿までかけつけて来てくれた。
優しい奴だ。本当にありがとう。
原因不明の高熱にうなされたが、幸い熱は1日で下がった。
翌日には、体調はすっかり回復した。
何だったんだろう??
バラナシの風景はだいぶ身近なものになり、
他人の様によそよそしかった風景も、少し仲良くなった友人の顔に変っていた。
こうやって、他人の様な場所が、友人の様に親しみを抱く場所に変わる。
在るものは変わらないのに、俺の「こころ」が変わったからだ。
旅には本当に沢山の学びがある。
私はその後、バラナシを後にした。
帰りはカズが途中まで見送ってくれた。
そして、アグラーという街に行き、
かの有名な世界一美しいお墓と呼ばれる『タージマハル』を見に行った。
タージ・マハルは、インド北部アーグラにある、ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、1631年に死去した愛妃ムムターズ・マハルのため建設した総大理石の墓廟。インド・イスラーム文化の代表的建築である。
気づけば、旅の終着地であるニューデリーに無事到着していた。
終着地点まで、書き切れない沢山の冒険があったが、
私の旅はある意味、
カルカッタとバラナシで終わっていたのだと思う。
そして、最終日
私はインディラ・ガンディー国際空港に立っていた。
つづく(17話/全18話)
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『あなたへ』
本日インド編のクライマックスでした。
明日でインド編の物語は終わりを迎えます。
インドは、本当に想像を超える事が多く、常にハラハラドキドキでした。
笑っちゃう話は他にも多くありましたが、今回のエピソードが心に強く残っていたので、記しておきました。
笑ってくれたら嬉しいな。
では、今日も良い日を、お過ごしください。
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