『なんにもありはしないのか』
「川からかすかに見える禊殿~見ているのはわたしだ」bY S
もうじき、日が暮れる。
私は、川の反対岸にうっすらと見える赤い建築物の『何か』に向かって、
『明日、会いに行くから』と呟いて立ち上がった。
川沿いを歩きながら、私は宿を目指した。
宿の夕食までは、まだ時間あるようだ。
『宿に戻っても仕方あるまい、せっかくだ。天河神社の境内でぼんやりしよう。』
私は天河神社に到着した。
境内をブラブラと歩くと、ポスターが目に入った。
『龍村 仁 監督 地球交響曲(ガイアシンフォニー)』
美しい写真、 命が一つである事を表現しているようなポスター。
私は強く興味を惹かれた。
『俺が好きな世界観だな、帰ったら見てみよう』と思った。
私はしばらく境内のベンチで過ごしていた。
参拝に来る方、風に揺れる木々、社務所、本殿など、ぼんやりと見つめていた。
ふと私の視界に
お年を召した、ずんぐりとした体型の宮司さんが通りかかった。
宮司さんは、私と目が合い軽く微笑し、会釈をされた。
包み込むような空気を纏った方で私は思わず、天河神社に来た理由を伝えたくなった。会釈をした後、思わず立ち上がり手を握りたくなる衝動に駆られた。
冷静な思考は
「そんな訳の分からない事を言っても困らせるだけだ。」
と思い直させ、その宮司さんが社務所に帰る背中を見送った。
後で知る事になるのだが、その宮司さんこそ、その世界では伝説的な存在である
柿坂 神酒之祐(かきさかみきのすけ)宮司であった。
日が暮れて、風が冷たくなった。
私は、宿に戻り食事をする事にした。
宿泊客も食堂に集まり始め、それぞれが簡単な自己紹介などをしている。
私は適当に空いている場所を見つけ席についた。
私は表面上、いつも落ち着いているように見えるらしいが、その様な場が特に苦手だ。すぐに逃げ出したくなる性質だ。
隣に座った女性客2人組に、
「どこからお見えですか?」なんて気の利いたことも言えず、
微笑んで会釈するのが精一杯だった。
宿泊者同士の会話は弾んでいた。
天河神社に来た理由は、それぞれの目的があるようだった。
トッレキングや天河神社への参拝。
結婚式を天河神社で挙げたので、数十年ぶりに天河に来た夫婦など。
隣に座っている女性は私と目を合わせると、
『天河神社に来た目的は何ですか?』
と私に尋ねた。
私は瞬間的に固くなってしまった。
この場で本当の事を言っても「変な奴・・」と誤解されるだけだろう。
私は「・・・観光・・・です。」
と反射的に嘘をついた。
ぎこちない回答だったためか、女性は少し不思議そうに私を眺めていた。
夕食後、隣で食事をしていた女性2人組に声をかけられた。
「良かったら天河神社の本殿に行きませんか?夜も素敵な雰囲気らしいんです。
でも私達2人じゃなんとなく怖いし・・」
私は、一人でゆっくり味わいたいと思いはしたが、
この様な人との出会いが旅の醍醐味だと思い直し、
「いいですよ」と返事をした。
私は一人旅をよくした。
結局、旅は人と出会うからこそ『命』を持つのだ。
宿を出て
お互いの情報を交換しながら、境内を歩いた。
本殿に行くとちらほらと人がいた。
「こんな夜にも人がいるのだな」と私は驚いた。
女性が多かった。
静かに瞑想をしている方
お祈りをしている方
祝詞が聞こえる
しんと静まり返った本殿は神聖な空気に満ちていた。
私は椅子に腰を降ろし、しばらく目を閉じていた。
私は神様に尋ねた。
「神様・・本当になんにもないのかい?明日、俺はもう帰ってしまうよ」
「・・・・・・」
神様からは返事はない。
私は目をあけた。
心地の良い風が、吹いているだけだった。
風に揺れた陣幕が、まるで呼吸をするように膨らんでいた。
やっぱり、なんにもありはしないか・・。
このまま何も得るものなく、帰るのだなと思った。
宿に戻ると宿の主人と出会えた。
「やあどうもどうも!」と宿の主人は陽気に挨拶をしてくれた。
「おっちゃんと呼んでくれたらいい」との事だった。
「まあここに座りなさい」ソファを指さし、座ることを促した。
私達3人は、ソファアに座った。
おっちゃんは、まるで小話をするように、天河の歴史・天河にご縁のある歴史上の人物・自分の生い立ち・ご真言など、などおもしろおかしく語ったが、どの話も造詣が深いことを感じさせるものだった。
特におっちゃんは女性の話になるのと元気になるのが、愛嬌と言うところだろう。
「好きな人をおとしたかったら、丘の上にある聖天様に会いに行きなさい。特定の形をした大根をお供えすれば、聖天様は願いを叶えて下さる。」
「嘘だと思うならあんたらもやってみたらいい」
「役行者 (えんのぎょうじゃ)の言葉で、受けた憎しみを同じもので返さず、徳をもって返したのだ。」というお話。
私達を感動させたり、笑わせたりとおっちゃんの話は自由自在であった。
おっちゃんは、女性2人組に、それぞれ来た目的を尋ねた。
そして、いよいよ私の番になった。
「お兄ちゃん、旅の目的は・・・?」とおっちゃんが尋ねた。
私は、本当の事を言わないと失礼だと感じた。
「・・・実は数日前に、明け方に天河神社という言葉を何度も聞いたのです。」
それを聞いた3名はしばらく沈黙して私を見つめた。
「俺自身もどうすればいいか分からない。だから来てみた。でもなにも起こらない。嘘くさい話なんだけど、本当なんです。」
おっちゃんは
「不思議な事があるもんだな・・それは、相当にあんたが天河神社とご縁があるんだな」と感慨深く私を見つめた。
そして、おっちゃんの話はとどまる事なく続いた。
「こんなに話をする事もないんだけどな・・・・」とおっちゃんは笑っていた。
私は、おっちゃんが伝えた数あるお話の中で「聖天様」「丹波川上神社」という言葉が頭に残った。
私は、このおっちゃんの話が、この旅に色彩を加えてくれた事を心から感謝をした。
夜も更けたので、話はお開きとなった。
それぞれ
「おやすみなさい」と部屋に戻った。
夜寝る前に、私には見えない存在。天河神社と私に伝えた存在に語りかけた。
『明日の神事が終わったら俺は帰るよ。俺は鈍感だから、もし伝えたい事があるなら、はっきり示してくれないと分からないよ。あなたが天河神社って言ったくらい、はっきり示してくれよ』
私は眠りに落ちる前、
もしかしたら、
『明け方に声が聞こえる』かもしれないと期待して眠りについた。
明け方、まるで地鳴りの様に雨が降っている音で目が覚めた。
続く。
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天河神社が呼んでいる⑤4部完(天河までの流れ④) - わたしからあなたへ
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『あなたへ』
やべー!!もう出勤時間10分前!!でこれ書いてます。
昨日は職場の会議だったため、夜書く元気はなく、
今朝4時30分に起きて書いてます。
結構厳しいー!!毎日書くなんて自分に課してしまって・・・。
しかも、最近小説風になってきて、文章量が増えてる。
集中してしまうと、やってしまう性格です。
でも、読んでくれる「あなた」がいるから、今日もなんとか書けました。
本当にありがとう。読んでくれているのが励みです。
さあ、木曜日!!がんばるぞー!!
行ってきます。
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